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厨房に立つ経営者

2015年4月掲載

日常使いのできる、気軽な店でありたい

 新しい高層マンションや企業のビルなど、新築の建物が建ち並ぶ恵比寿東口エリアを歩くと、築年数の古さを感じさせる風情あふれる2階建ての建物が目に入ってくる。時代に取り残されたような風合いが逆に新鮮さをかもしだす。
 魚屋のようなファサードには、旬の魚のお品書きが無造作に張られ、道行く人がそれらを眺めていく。
 木原氏が独立して、この地に店を出したのは2012年のこと。魚介を専門に提供する企業に18年間在籍し、徹底的に魚について、店舗運営について学んできた。
「前職の社長が大変尊敬できる方で、『うちは独立のための練習の場だと思ってがんばりなさい』と言ってくれていたんです。で、いろいろ学ばせていただいているうちに気がついたら18年(笑)。後輩からも、いつまで店長やっているんですか?なんて言われて。それで独立に向けて、物件を探し始めたんです」
 恵比寿で勝負してみたいというイメージは、前職の恵比寿店で仕事をしていた頃からもっていた。生活感度が高く、仕事にもグルメにも自分なりの価値観をもっている人々が多いと感じていたからだ。新築のレジデンス型マンションを購入し、この街を生活の拠点にしている起業家も少なくない。
「実際、お店をはじめてみると、徒歩圏からのご来店とか、ずっと地元に住まわれているご家族とか、地元の方がとても多かったんです。近くに銭湯があったりして、タオル首に巻いてご来店してくださったりね。店の入り口で、よぉ何丁目の〇〇さんじゃないか、元気?なんて挨拶が交わされたり。そういう日常使いのできる、気軽な店でありたいと思っているんです」
 インタビューの途中、何度も食材が届く。発泡スチロールの箱の中は、メダイやのどぐろ、キスやカツオ、鮮度抜群のサバなどがぎっしりと詰まっていた。

店に垣根をつくらず、ガヤガヤした空気感を演出

木原氏が考える店主の心得

 1階、2階ともに、カウンターがあり、お客さまとの距離感もとても近い。目の前で刺身がさばかれていく姿を目の当たりにしながらの一杯は、一日の締めくくりとして格別だろう。
 スタッフも、お客さまへの声かけを気さくに行う。店主の木原氏も、自然体の笑顔で、本日の魚の話し、旬のこと、街の世間ばなしなどをおしゃべりする。人見知りをまったくしないキャラだ。
「いや、昔はすごい人見知りだったんです(笑)。お前はキッチンに閉じこもって仕事をしていろ、と先輩から言われるくらいでしたから。ただ、前職のカウンターでお客さまから『ありがとう』なんて言われると、うれしいじゃないですか。こちらがお金いただいているのに、お礼なんか言われるんですよ。それとか、ケンカしながら入店してきたカップルが帰るころには笑顔になって『また来るね』なんて言ってくれる。そういうコミュニケーションから少しずつ、こんなキャラになってきたんです。お客さまが私を育ててくれたんです」
 空間にはいくつもの工夫が施されていた。
 1階と2階が完全に閉ざされないように、吹き抜けが造られて風通しのいい空間になっていた。これによって空間全体に一体感が生まれ、ワイワイガヤガヤした空気感に包まれることになる。
「オーダーでーす!」と2階から声が入り、プラスチック製の筒からストンっと1階のキッチンにオーダー伝票が降りてくるというアナログな仕組みで楽しさを演出。それでいながら、2階には女性専用のトイレを配置するという繊細な配慮もある。
 おいしい魚をひとくちで、いろいろな種類を愉しめる魚の串焼きも、女性には好評だ。サワラ塩麹串、銀ダラ麹みそ串など、日本酒でもワインでも合いそうなメニューが並ぶ。
 豪快さと繊細さを融合しながら、その日最高の魚介をおいしくリーズナブルに──。それを演出するのは木原氏をはじめとしたスタッフであり、古民家のようなあたたかい空間でもある。

この店が独立に向けての練習の場でありたい

木原 誠

 料理も、酒も、雰囲気も含め、トータルに愉しんでほしいというのが、木原氏の願いだ。
「モノを売っているという意識はあまりないんです。おいしい魚を中心に、スタッフの個性とか空間とか、その日のガヤガヤした感じとかね、2時間や3時間といった時間をトータルに買っていただいていると思っています。楽しかった!と言っていただければ最高なんです」
 お客さまにとってのそのひとときに、スタッフと一丸になって向き合い、おもてなしをする。その積み重ねがやがて数字となって現れる。この考え方が木原氏の根底に流れているのだ。
「数字はあとからついてくる。本当にそう思います。今、数字がよくても、今のやり方では数ヶ月後にダメになる場合だってあるわけですよね。だから数字を追いかけないように、みんなで心がけているんですよ」
 若いスタッフに、どんどん仕事を与える木原氏。刺身をひく仕事も、積極的にチャレンジさせる。経験の浅いスタッフも、数をこなすことによって成長する。かつて、木原氏がそうだったように、この店が独立に向けての練習の場でありたいとの気持ちを強くもっている。
「独立をしたいなら、気力も体力もみなぎっている若いうちに店をもった方が絶対にいいと思うんです。若いなら、失敗してもやり直しがききますからね。街に新しい飲食店ができると、ワクワクするでしょう?商店街や人がつながって、街が少しだけ元気になると思うんです。街の社交場っていうのか、昔は八百屋さんや魚屋さんがその役割を担っていたけど、今は飲食店がそのコミュニティの場になればいいなって思うんですよね」
 オープンして3年。「魚屋きいもん」は早くもこの街になじんできていた。

魚屋 きいもん
住所:東京都渋谷区恵比寿1-26-15
電話:03-5420-1232
時間:17:00~24:30(L.O.23:30)
定休日:不定休
交通:JR・地下鉄各線「恵比寿駅」より徒歩7分
  • 文 高木 正人
  • 写真 ボクダ 茂

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