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厨房に立つ経営者

これまでのキャリアの集大成を、麻布十番で表現

 「同業者である料理人と話をするのが苦手なんです。ついつい、料理以外の話題に切り替えたくなってしまうんですね(笑)」と、奥田氏は語る。
 海外でのレストラン経験が23年にも及ぶ奥田氏の視野は、とても広い。
 当時のサンフランシスコの街並み、活気あふれるシリコンバレーのビジネスパーソンたちとの交流、海外から見えた日本の四季の素晴らしさ、パリで出会った画家の感性の鋭さ、バブル景気、リーマンショック、欧州の経済危機に至る時代背景など、さまざまな話題の断片が会話の中に散りばめられる。
 ひとりの料理人として、あるいはレストラン経営者として、ごく自然に世界の情勢を呼吸しながら日々を過ごしているように感じる。そして多くの表現者がそうであるように、尖がっていた時代を通過し、麻布十番の街でオーナーシェフとして過ごす今は、とても穏やかな気持ちで料理を楽しんでいるようにも見える。
 そんな奥田氏にも当然のことながら修業時代があった。シェフや先輩たちの技を見ると、すさまじい集中力で自分のものにしていった。
「新しい技に対する意欲みたいなものはありましたね。先輩が何気なくやっている仕事でも、すごいなぁと思う。あの技を自分のものにしたいと思うわけです。でも、自分に課せられた仕事もありますよね。そうすると、自分の仕事は朝イチに出勤したりして、早く終わらせてしまうんです。そうやって時間をつくって、その先輩にくっつくわけです。『その仕事、お手伝いさせてください』って。『自分の仕事をやれ!』と言われて、『大丈夫、もう終わりましたから』と(笑)。パリ時代には、時間をつくって、美術館めぐりも積極的にしましたよ。やはり感性を磨くことは大事ですからね」

フレンチと和を融合させた料理を多彩に品数多く

心得

 wafutu──。フレンチと和食を融合させた奥田スタイルの料理をひとことで表現すると、こうなる。ジャンルを超えて、四季折々の旬の味を大切にしたいと考える奥田氏ならではの表現スタイルだ。
 筍や菜の花といった旬の食材を昆布やかつおで取った出汁のジュレで魅せるひと品など、やさしい味わいで毎週でも通いたくなるメニューが並ぶ。
 ゆるやかなカーブを描く壁面に沿って贅沢に配置されたテーブル席には、女性にも持ちやすそうな、削りの入った箸がセットされている。和仏タパス(小皿料理)や、奥田氏との会話を気軽に楽しめるカウンター席も人気だ。
 3点ほど飾られている額縁の絵も、しっくりと空間に溶け込み、その中のパリ時代の友人からもらったりんごの絵は、ショップカードにもデザインされている。
 そしてカウンター奥のキッチンは、磨きぬかれて清潔そのもの。
「私自身、食べることも大好きなんですが、やはり綺麗なキッチンから運ばれてくる料理じゃないと、食事は楽しめませんよね。衛生管理が大事なことは言うまでもありません」
 そのキッチンから運ばれてくる料理の品数の多さも、おいしいものをたくさん楽しんでいただきたいと願う、奥田氏の想いが込められている。7000円のディナーコースでさえ、アミューズからデザートまで、13品もの多彩な美食を楽しめるのはうれしい。
「麻布十番は、海外でも知られている有名な街なんですよ。古くから住まわれている地元の方や、海外から駐在されているビジネスパーソンなど、実に様々な人たちによって街が活気づいている。いつかはこの街でレストランができればと思っていたんです」

ワクワクしながら仕入れ、その気持ちのままキッチンに入る

井上 勇

 「ブラッセリー トモ」がお客様にとって楽しく和める場でありつづけるために、オーナーシェフ自らワクワク感をもって仕事にのぞむことを、奥田氏は心がけている。
「レストランというものは恐いもので、こちらがイライラしていたら、それがそのままお客様に伝わってしまいますよね。そうならないために、いつも自分が楽しく毎日をおくるように心掛けています。いやなことは、できるだけやらないで済む環境を自分でつくるわけです。まず基本は、好きなものを食べることですね。まかないも自分でつくって、楽しく食べています。オーナーシェフとして、普段から食文化を楽しまなければ、それがお客様に伝わってしまうからです」
 築地に仕入れに行くときも、ごく自然にワクワクしてくるという。
「今日ご予約いただいたお客様には、この野菜をお出ししようとか、いやあの魚もいいなぁとか。どんどん気持ちが乗ってくるんです。そしてその気持ちのまま、キッチンに入るようにしています」
 ワクワクしながら仕入れた食材に、気持ちを乗せて料理に仕上げる。だからお客様に料理の説明をするときにも、そのワクワク感が伝わるのだろう。
「1本の電話で食材を発注するのと、自分の足と目で食材を探して、そこの主人とコミュニケーションを交わしながら仕入れるのとでは、やはり何か違ってくるんですよね。毎日平凡な気持ちじゃなく、街路樹の花に季節の息吹きを感じたり、ときには好きな画家の絵に感動して気持ちよく仕事にのぞむとか、食材に感謝しながら、包丁を入れるとか。そうやって、常に自分が新鮮な気持ちになるように演出しているかどうか。そういう精神面までもが、最終的にはお客様に伝わってしまうのが、レストランというものではないでしょうか」
 30年以上にも及ぶキャリアをもつ奥田氏だけに、なおさらこれらの言葉が深みを増して聞こえる。
「なんといっても、カウンター越しに、お客様が料理を楽しんでいる姿を見るのが好きですね」
 そう語る奥田氏のもとに、今日も期待を寄せてお客様が集まる。やさしい味わいで、毎週でも食べ飽きないフレンチと和食の融合──「wafutu」料理を求めて。

店舗写真
Brasserie Tomo(ブラッセリー トモ)
住所:東京都港区麻布十番1-6-5 ラミュウーズ十番ビル2F
電話:03-6447-0108
時間:11:45~14:45 ※月曜日のランチは休み/18:00~23:00 ※日・祝は18:00~22:00
休日:不定休
交通:地下鉄大江戸線麻布十番駅7番出口より徒歩1分
    地下鉄南北線麻布十番駅4番出口より徒歩4分
  • 文 高木正人
  • 写真 ボクダ茂