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料理人オーナーからの
熱いメッセージ
有限会社 一滴八銭屋
代表取締役 大薮 由一郎さん

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厨房に立つ経営者

安全装置が働いているのか(笑)オープン当初の記憶がありません

 関東でも気軽に食べられるようになり、讃岐うどんの人気は全国的にすっかり定着してきた観がある。その火付け役となり、うどん居酒屋という新ジャンルを拓いたのが「一滴八銭屋」だ。
 代表の大薮氏は愛媛県生まれ。実家がうどん屋を営んでいたと聞けば、なるほどと合点がいくが、実は「うどん屋だけは絶対したくなかった」のだとか。そう単純なサクセスストーリーではなさそうだ。
「以前は建築関係の会社で働いていたのですが、店舗の内装などを手がけるうちに、自分の店ならこうしたいと考えるようになっていました。そこに、大学を卒業したばかりの弟が大手商社の内定を蹴って、『一緒に店を出そう』と言い出したのです。ちょうど30才になる節目でしたし、思い切ってやろうと決意しました」
 ところが、当初予定していたのは“スープ屋”。高齢化による将来的なニーズを見込んでのことだった。
「周りの人にスープをやりたいんだと話をすると、『いつ食べるの?』と言われました。確かに、朝食だけの需要では弱い。じゃあ、麺を入れてみようということになったのです」
 急遽、四国の実家の店や地域の有名店で“うどん屋修業”。戻るとすぐ理想的な物件に巡りあい、1999年1月、西新宿に店を構えた。
 しかし、数ヶ月の経験を積んだとはいえ、スタッフは皆、ズブの素人。予測もつかない波乱の船出だった。
「その頃のことで思い出せるのは、お客様のにらむ目だけ。調理の手順もキッチンの中の配置もわからない。うどんをつくるのにも他のオーダーが入ると手が止まってしまうので、2時間くらいかかったり、しっちゃかめっちゃかでした。安全装置が働いているのか(笑)、記憶が完全に消えて、本当に覚えていないんです」
 そんな立ち上げの状況にもかかわらず、店の評判はじわじわと広がり、客足は伸び続けた。大ブームの兆しが現れてきたからだ。
「ちょうどブームの2、3年前、インターネットもない時代でしたが、パソコン通信でうどんフリークが集まり始めていました。その人たちの間で噂になっていたのです。たまたまのことで、運が良かったと思います」
 時代を味方につけた「一滴八銭屋」は確実に成長を遂げていった。

自分たちが行きたくなる店 自分たちにしかできない店を創る

 無論、ブームにうまく乗っただけでは、多くの人々の支持を集め続けることはできない。素人からの立ち上げは苦労も多かったが、素人だからこその視点は強力な武器になった。
「素人だったから、お客様の気持ちがよくわかりました。こういうのがあればいいのにというのをすべて実行することから始めました。たとえば食材を焼きすぎたとき、焦げたままで出すような店もあるでしょう。でも、それを出す店に自分が行きたいだろうかと考え、少しでも迷ったらやめると決めています」
 今も変わらない第一の心得は『自分たちが行きたくなる店を創る』。
 そして、もう1つのコンセプトは『誰にでもできることはしない』。自分たちにしかできないオリジナルなものをつくり出し、世の中に問い続けるという姿勢に揺るぎはない。
「讃岐うどんも本場のままを持ってきたのではありません。アレンジして、僕らにしか表現できないものにしました。スープにこだわり、一食でお腹いっぱいになる“創作うどん”を看板メニューにしてきました」
 その後、新たに手がけるようになった店舗も独創的なものばかり。新宿本店の向かいにある「串天ぷら 段々屋」は串天ぷらとシャンパンをあわせる斬新なスタイルを提案。新宿南口の「粗挽き蕎麦 トキ」では江戸前の蕎麦とは食感も風味も全く異なる田舎蕎麦をメインに、ひとり飲みの女性客にも人気を集めている。
「うどん屋をどんどん広げるつもりはありません。その都度、新業態を発掘して他にはできない店をつくりたいと考えています。自分のやりたいことを表現できるのが、この仕事の魅力。しかも、よく言われることですが、お客様の反応を間近に見られるのが一番のやりがいですよね」
 新宿の地に19年――たくさんのお客様との出会いがあり、心温まるエピソードも数多く生まれている。
「この店で会って結婚されたお客様もいらっしゃるんですよ。『18年前にあそこのテーブルで、彼からあの言葉をもらって結婚できました』と、お子さんを連れてこられたり。テーブルの1つひとつにお客様の思い出があります。食べものを提供するだけではなく、誰かの思い出の場所になる。だから、簡単に店を閉めてはいけません。お客様の人生の一シーンを創るのですから、長く続けていく使命があります」

世界の人たちが見たことのない日本の食文化を伝えたい

大薮 由一郎

 現在も、大薮氏は「おもしろいものが見つかったり、みんなに教えたいものがあれば出店したい」というスタンス。単に店舗数を増やせばいいという拡大志向ではないが、広い世界に向けて熱い視線を注いでいる。
「学生時代に1年かけて、世界中を放浪していました。あの経験は自分の人生に必ず何らかの意味をもたらすだろうと信じています」
 実は、取材の翌々日にもシンガポールへ渡航の予定。世界に飛躍する足がかりをつかむため、まずは現地の状況を見に行くのだという。
「ある会を通して海外での出店を支援している方と知り合い、行ってみようという話になりました。やりたいなと思って、くすぶっているだけでは何も始まりませんから。これまで9年ごとに新しく店を出したり、大きな変動があったのですが、18年を越えてそろそろ動き出す節目です。スタッフのみんなにも動くぞと、今から宣言しているんですよ」
 月1回、国際空港にいるような自分を思い描いている大薮氏。次は世界を驚かせたいと意気込んでいる。
「将来的にはライセンス契約のような形で、現地の方に店を任せたいと考えています。そのためにも、世界に発信できる魅力的なコンテンツを磨いていかなければ。世界の人たちがまだ見たことのない日本の食文化を伝えたいと思っています」

厨房に立つ経営者
一滴八銭屋 新宿本店
住所:東京都新宿区西新宿1-15-9 KCビル2F・3F
電話:03-3342-8889
時間:【ランチ】月~日/11:30~14:30
【ディナー】月火土/17:30~23:00(L.O.22:30)
水木金/17:30~23:30(L.O.22:30)
日/17:30~22:00(L.O.21:30)
定休日:盆・年末年始
交通:各線「新宿駅」徒歩5分
  • 文 西田 知子
  • 写真 小野 順平

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