第四十二回 コム・ア・ラ・メゾン
2008.4.17

シェフの仕事


本物のフレンチを表現するために、自らの味覚を「フランス人化」。


日本人がつくった料理は、すべて和食という考え方があります。たとえフランスの素材でフレンチをつくったとしても、料理人のDNAが紛れもなく日本人である以上、その料理は広い意味で日本料理なのだと。       

しかし涌井勇二シェフは、「日本人だって感覚的にフランス人になってしまえば、本物のフレンチがつくれるのではないか」という仮説のもと、自らの味覚を「フランス人化」させてきました。

つまり、ごはんや納豆などの和食をライフスタイルから一切排除し、徹底的にフランス人型の食事を貫いてきたわけです。

すると調理の技法も変化してきます。日本人なら素材の食感をあえて残すところを、素材がクタクタになるまで煮詰めたり、わざと包丁を研がずに野菜の断面をザラザラに切ることで、ソースを染み込ませようとする「フランス人化」した自分がいたのです。

そして26歳から3年間、フランスに滞在することで、ますますフランス人の味覚に向かっていきます。偶然出会ったランド地方の郷土料理に魅了されたのです。帰国したら、絶対にこの料理の素晴らしさを日本に紹介しようと自分に誓いました。

今でも年に一度はランド地方を訪れ、貴重なアルマニャックやワインなどを買い付けてきます。

「浅く広くというよりも、深くピンポイントで掘り下げたい性格なんですね。ただランド地方の郷土料理なんてあまりにも無名だったし、オープンして3年は経営的に苦しかったですよ」


同業者が集まる店。シェフたちの「朝まで生激論!」も。


涌井シェフの店には、閉店間際になると、様々なジャンルのシェフたちが自然と集まってきます。


そして、ランド地方のワインを開け、料理や素材、東京のレストラン情勢について、
あるいは地球温暖化問題や穀物価格の高騰など、料理人として気になるトピックスに
ついて、自然と議論が交わされていきます。

議長・進行役は涌井シェフです。

「朝まで生激論になることもあります(笑)。若い料理人からベテランシェフまで、本当に物事を深く掘り下げる方ばかりで、私自身とても刺激になりますね」

涌井シェフを中心に、哲学をもつシェフたちが夜な夜な親睦を深め合うコミュニティの
場――。「コム・ア・ラ・メゾン」には、そんな役割もあるのです。

写真(右)でピースサインを送るのは、涌井シェフの一番弟子、坂本昌彦さん。涌井シェフにとって、スタッフは家族。いや家族以上の存在だそうです。

「24時間のうち、カミさんといる時間より、彼といる時間の方が長い(笑)。今、業界では離職率が問題になっていますが、それは私たち親方側の問題だと思います。私は家族としてスタッフと付き合います。だから、全部本音で話すし、喜びや苦しみも共有していきます。今そろそろフランスへ行って来いと言っているんです。私がランド地方の魅力に出会ったように、何か人生にインパクトを与えてくれるようなものに出会ってきて欲しいんですね。そして、元気に独立してくれたら、家族のひとりとして最高の喜びです」と、優しい親方の表情を見せてくれました。

ふたり


<MENU>

 

■鴨の心臓の串焼き ピキオ(赤ピーマン)と共に  


■田舎風パテ  

 

■ランド地方のママの味 スープ・ド・ガルビュ  


■ガスコーニュ風トリップ  

 

■魚の身を詰めた赤ピーマンのファルシ"ピキオ"トマトソースで  

 

■森鳩のロースト 血のソース

1,500円

 

1,400円

 

1,400円

 

2,200円

 

1,500円

 

3,000円(11〜12月のみ)

 

  バスクの唐辛子   アルマニャック   店内  
  ランド地方に近いバスク地方でしか獲れない唐辛子が店内のアクセントに。   ランド地方のアルマニャックにも力を入れて
います。貴重な年代ものも発見!
  「4〜5時間かけてゆっくりと食事を楽しんで
ほしい」と、涌井シェフ。
 

店舗情報

コム・ア・ラ・メゾン
東京都港区赤坂6-4-15 シティマンション赤坂1F
tel.03-3505-3345
営:18:00-24:00(L.O.)
休:日曜日
交:代田線赤坂駅徒歩3分

 

<予告>次回のリレーキーワードは?
 
「コム・ア・ラ・メゾン」→ 掘り下げ仲間 →「リストランテ アッカ」

「広く浅くより、深くピンポイントで」と語る涌井シェフのお話が印象的でした。さて、次にご紹介いただいたのは「アッカ」の林冬青シェフです。「林シェフは物事の考え方、掘り下げ方が半端じゃなく深い方ですよ。そしてサービスへの情熱も大変深い方です」。そんなわけで、次回は広尾にあるリストランテの名店「アッカ」さんに伺ってきます。
文:高木 正人