第三十七回 パッソ ア パッソ
2008.2.7

真冬のパスタ

出来のいい素材ばかりが集まる求心力も、シェフの実力。


有馬邦明シェフは、1996〜1997年の期間、イタリア各地に滞在しました。そこで感銘を受けたのは、生産者と料理人がそのエリアでしっかりと結びついていることでした。

 

「風土に根ざした素材を丹精込めて生産し、旬を楽しむという食の循環を、村や町で展開しているんですね。いわゆるスローフード運動です。<この時期のこの素材は最高だょ。トマトはお隣のおばさんの畑でいただいたものさ>みたいな感じ。素材を通して人と人、人と自然、地域と地域がつながっているんです」

 

2002年2月、門前仲町で「パッソ ア パッソ」をオープンさせた理由は「この町にイタリアの活気を感じたから」。今でも祭りになれば、御輿を担ぎます。冷静な表情とは対照的に、体内にはラテン系の血が流れているのかもしれません(笑)

 

写真は「温泉もやしのパスタ」。温泉熱を利用して栽培された青森県産のもやし、同じ青森県で水揚げされたあんこう、かつおの酒盗、ほうれん草、生姜が素材です。

 

あんこうの旨味がオリーブオイルを介して全体に行き渡り、ほうれん草のしんなり具合が、主役である温泉もやしのシャキシャキ感を見事に引き立てています。すべて和の素材なので、味わいのアクセントにはアンチョビではなく酒盗なのですね。そして驚くことに食べ終わって数時間、カラダがポッポと温かい。これは生姜の効果でしょう。

 

私はこの一皿を「ニッポンの真冬のパスタ 〜温泉もやし編〜」と名付けたいっ!


自分のスタイルを売り込むため、包丁持参で生産者のもとへ。

「パッソ ア パッソ」には毎日素晴らしい素材が日本各地から届きます。

「京都の牧場から牛肉が届いたばかりなんです。ここのレバー、美味いんですよー」と、荷物を開封しながら、生産者に感謝の想いを馳せているような表情が印象的です。

生産者に会いに行くことが、有馬シェフの重要な仕事でもあるのです。

「素晴らしいモッツァレラチーズを発見した時、生産している岡山県の牧場主にお会いしたいと思い、無我夢中で肉と包丁持参で飛行機に飛び乗ったこともありました。セキュリティチェックで包丁が機内持ち込みできないことも気づかずに(笑) 牧場に着いて、キッチンをお借りし、肉料理を試食してもらったんです。こんな料理をする人間ですと、自分のプレゼンテーションですね。で、チーズを分けてください!とお願いしました。今ではいいお付き合いをさせていただいています」

千葉の農家まで出向き、田植えを手伝うこともします。愛知県のトマト生産者のもとへも出かけます。最近、ふぐ調理師免許も取得しました。「明日、日帰りで大分県までふぐ料理を試食しに行くんです」と、どこまでも行動するシェフなのです。

有馬シェフにとっては日本全土が畑なのかもしれません。イタリアで感銘を受けたスローフードの精神。お隣のおばさんの畑からトマトを分けていただくように、日本各地へ足を運ぶ。その行動力がいつの間にか「パッソ ア パッソ」を素材の宝庫へと成長させてきたのです。

シェフの仕事.

 

<MENU>

 

コース料理
■シェフおまかせ    5,800円コース   8,000円コース
 8,000円コースの例:アミューズ・前菜・リゾット・手打ちパスタ・メイン・(パスタ)・チーズ・ドルチェ


※お電話にてご予約お願いします。

※アレルギー等、お気軽にお申し付けください。


 

  素材チェック   パスタの素材.   内装  
  京都の牧場から到着した牛肉を開封。鮮度バツグンのレバーは濃厚な味わいでした。   「温泉もやしのパスタ」の素材。ほうれん草・生姜・酒盗・あんこう、そして温泉もやし。   わずか4テーブルのお客様にその日最高の素材を――それが有馬シェフの考え方です。  

店舗情報

パッソ ア パッソ
東京都江東区深川2-6-1 アワーズビル1F
tel.03-5245-8645
営:ランチ11:30〜14:00(日曜のみの営業)
  ディナー17:30〜21:30(L.O.)
休:水曜日
交:東西線門前仲町駅6番出口徒歩2分

 

<予告>次回のリレーキーワードは?
 
「パッソ ア パッソ」→ ジャンルを越えた共感 →「うさぎの小屋」

有馬シェフの素材への情熱、素晴らしいですね。次回のシェフにご紹介いただいたのはフレンチ「うさぎの小屋」の菅原シェフです。「フレンチに興味があった頃、よく通ったお店です。料理ジャンルは違うけど、素材への取り組みなど、共感できることがいっぱいです」とのこと。南行徳の住宅街に佇む一軒家レストランをたったひとりで回しているオーナーシェフの仕事ぶりをご紹介します。
文:高木 正人