コーヒーを一杯、タバコを一服、会話を楽しむ 至福の瞬間が詰まったリラックス・ムービー ジャームッシュのセンスに脱帽! インディペンデント映画界の雄、ジム・ジャームッシュ監督が送りだした本作は、意表をついた顔合わせの11組が交わす“茶飲み話”を積み重ねた異色作。その内容はショートムービーというより、スケッチと呼ぶにふさわしいほど何気ないものだが、オフビートなテンポの中にユーモアが溶け込んでいて、思わずニヤリとしてしまう。 本プロジェクトは、86年に米の人気番組『サタデー・ナイト・ライブ』向けに作られた、ロベルト・ベニーニとスティーヴン・ライトの「変な出会い」から始まった。そして89年、ジョイ・リー&サンキ・リー(スパイク・リー監督の兄弟!)、スティーヴ・ブシェミの2作目「双子」が作られる。カンヌ国際映画祭の短編部門で最高賞を獲得したイギー・ポップとトム・ウェイツの「カリフォルニアのどこかで」が製作されたのは、93年だ。つまり本作は、10年以上かけて撮りためられた作品集なのだ。 出演者は、ジャームッシュ作品の常連や彼と親交の深いミュージシャンが中心だ。彼らが囲むのは、(いくつかの例外はあるものの)決まって白と黒のチェック柄テーブル。そこにコーヒーカップが置かれると、まるでゲーム盤に並んだコマのようだ。それを真上から撮ったショットの、なんとスタイリッシュなこと! 極めて日常的な風景を、どうしてこんなにカッコよく撮れるのか…。センスの良さにあらためて脱帽! 喫煙文化、バンザイ! イギー・ポップのセリフを借りれば「コーヒーとタバコは、最高のコンビネーション」だ。とはいえ本作に登場する11組は、それほど「相性バッチリ」でもないらしい。 彼らの会話は微妙に噛みあわず、発言が真意でない方向に捉えられることもしばしば。しかし世の中、盛り上がる会話よりもそんな会話のほうが、多いんじゃなかろうか。そして気楽に盗み聞きしていてオモシロいのも、圧倒的に後者のケースだ。 とはいえテーブルの当事者は、なんとか場をつなげようと必死になる。そんな時、喫煙者なら身に覚えがあるだろうが、何よりも強い味方となってくれるのがタバコだったりする。互いにぷかり、ぷかりと煙を吐き出してさえいれば、不思議と「沈黙の気まずさ」感は遠のいていき、やがて「至福の瞬間」がやってくるのだ。そんな“至福”が、本作にはギュッと詰まっている。 ジャームッシュが本プロジェクトを手掛けている間に、世界規模の禁煙運動が猛スピードで推し進められてきた。しかしコーヒーとタバコのある、こんなゆったりとした時間を根こそぎ抹殺するなんて、もったいなさすぎる! と、私は思うのだが…。
文:谷藤さおり
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