「チェリーパイ」

2006年 日本  80分
■監督:井上春生
■脚本:井上春生・久保裕章
■出演:北川景子 江口のりこ 原田夏希 
白井晃 肘井美佳 海東健 品川徹 
渋谷桃子 竹財輝之助 岡田浩暉
■主題歌:いきものがかり「二輪花」
(EPIC RECORDS JAPAN)
■製作:チェリーパイ製作委員会
■配給:アップリンク
この情報は2006年10月時点のものです。

 

しっかり受け継ぎたい味がある
新人パティシエ・キヨハラは、店の看板メニュー“チェリーパイ”が上手く作れず、目下スランプ中。閉店後も1人残ってチェリージャムを作るが、どうしても“あの味”が出せない。1年前、交通事故で死んでしまった先輩パティシエの辻内。彼の死といまだに向きあえない、彼女の心の悩みがチェリーパイの味に現れてしまうのだった。一方、キヨハラの店にしょっちゅうやって来る、友人の八千代と文。一見元気そうな2人も、それぞれ悩みを抱えており・・・。
甘酸っぱい度
料理の魅力度
総評
甘口だけど爽やかなガールズ・ムービー。しかし普段はコワモテな飲食人こそ、恩義のある先輩を思い出して男泣きしてしまうかも・・・。

 

新人パティシエと友人の乙女ゴコロを描いた
甘酸っぱくて繊細なスイーツ・ムービー!


画面から漂う甘い匂いにメロメロ!

  高校を卒業後、その店のチェリーパイに惚れ込んでパイ専門店の門を叩いたキヨハラ。熱意は人一倍だけれど、お酒に弱い彼女はチェリーをキルシュ酒で煮詰める番をしているだけで、揮発したアルコールに酔ってしまう。不器用で手間のかかるキヨハラを、温かく見守りながら厳しく育て上げたのが、先輩パティシエの辻内だった。
  しかし1年前、交通事故に巻き込まれた辻内はあっけなく他界。キヨハラは、一度はマスターしたはずのチェリーパイの味を再現できなくなってしまう。さらにサクランボを納入している農家の娘が、辻内と婚約していた事実が発覚! 密かに辻内に好意を寄せていたキヨハラは、いよいよ仕事が手に付かなくなってしまう…。
  砂糖をまぶし火にかけたサクランボの甘い匂いが、全編に漂う。「海外には『チョコレート』や『ショコラ』などスイーツをテーマにした映画があるが、日本にはない。だから僕が作ろうと思った」と語る井上春生監督。その狙い通り「これはチェリーパイのプロモーション・ビデオ?」と見まがうばかりの、スイーツな映画が誕生した。
  ちなみにチェリーパイは、自由が丘スイーツフォレストの全面協力によるもの。フチに特徴的なデコレーションが施され、つややかなチェリーがぎっしり詰まったパイは、何ともフォトジェニック。映画の主役にふさわしい、存在感にあふれている。

繊細でたくましい、女の子という存在

  主人公と2人の親友、そして辻内の元婚約者。この悩める4人の女性たちとチェリーパイの関わりが、きっちり描かれていくところも心憎い。
  キヨハラの友人で恋多き女・八千代と、キャリアウーマンでしっかり者の文は、しょっちゅう店にやってきてはチェリーパイを食べている。しかし彼女たちは、ただ甘いものが食べたくて店に来ているわけじゃない。大好きな友人が作るパイを食べることは、彼女たちにとって儀式にも似た特別なことなのだ。
  お気に入りのスイーツで、癒される。男性は、そんな女性をゲンキンな生き物だと思うかもしれない。しかし女性は男性が思う以上に繊細で、恋愛が上手く行かなくなると途端に日常生活を送れなくなるほど、壊れやすい生き物だ。しかし同時に、その傷を自分で癒すことのできる、その方法をちゃんと心得た、たくましい存在でもある。男性監督が撮ったとは思えないほど、女性の感性が的確に、瑞々しく描かれていく。
  陽光降りそそぐ日のアフタヌーン・ティーのように、リラックスして楽しめる、それでいてカタルシスにあふれた作品だ。


文:谷藤さおり

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