「赤い薔薇ソースの
伝説」

1992年 メキシコ  115分
■監督・製作:アルフォンソ・アラウ
■原作・脚本:ラウラ・エスキヴェル
■出演:ルミ・カヴァソス マルコ・レオナルディ 
レヒーナ・トルネ ヤレリ・アリスメンディ 
クローデット・メイル マリオ・イヴァン・マルティネス
■VHS「赤い薔薇ソースの伝説」(カラー作品)廃盤
この情報は2006年10月時点のものです。

 

料理で恋人をメロメロにしたい!
19世紀末、革命下のメキシコ。裕福な農家の末娘ティタは、美しい青年ペドロに求婚される。2人の間には確かな愛情があったが、末娘は親の世話をしなくてはならないという家のしきたりのせいで、ティタの母親に結婚を許してもらえない。そればかりか母親は、ティタの2歳上の姉・ロサウラとの結婚をペドロに勧める。永遠の愛を誓ったティタのそばに居続けるため、その申し出を受けてしまうペドロ。この選択から、20年以上にわたる愛憎劇が始まる・・・。
濃厚!愛憎度
料理の魅力度
総評
ティタの料理が毒にも媚薬にもなるように、好き嫌いの分かれる作品なのでこの評価。12カ月の料理レシピが載った原作本もオススメです。

 

熱湯のように煮えたぎった感情が
料理に魔法をかける、壮大なメロドラマ


封建的なしきたりが生んだ悲劇

  末娘は結婚せずに、死ぬまで親の面倒を見なくてはならない―。そんな封建的なしきたりと支配的な母親に縛られた、非運の女性ティタ。台所で生まれた彼女は、冷たい実母よりも原住民の家政婦ナチャになつき、伝統的な料理の数々を習得する。
  15歳になったティタは恋をするが、待っていたのは世にもおぞましい運命だった。ティタとの結婚を許されなかった恋人ペドロは、彼女と同じ家で暮らすため、なんと姉・ロサウラと結婚してしまうのだ。
  そこから始まる一家の愛憎劇を20年にわたって描く本作だが、とうてい理屈では説明できない、幻想的でシュールな雰囲気がそこかしこに漂う。なかでも度々登場するのが、火の気のないところに突如、炎が立ち昇るシーン。怒り、嫉妬、欲望、情念…。彼らの激しすぎる感情が、実際に炎となって現れ、運命を動かしてしまう。
  原題は「Como Aqua para Chocolate」、チョコラーテ(ホットチョコレート)のためのお湯のように。つまり、ぐつぐつと沸騰する熱湯を意味している。まさに煮えたぎるような人間の感情を生々しく描いた、壮大なメロドラマの本作に、いかにもふさわしいタイトルだ。

ティタの感情で魔法がかけられた料理

  薄暗い台所で過ごすヒロイン・ティタの思いは、はからずも料理に魔法をかけてしまう。ペドロと姉の婚礼のため、170個もの卵を使って泣きながら作ったウェディングケーキ。それを食べた参列者は途端に泣きだし、次の瞬間、全員が吐きだしてしまう。彼女の悲しい気持ちに“当たって”しまったのだ。彼女の1番の理解者だったナチャは、悲しみに感応しすぎたのだろうか、なんとケーキで命を落としてしまう。
  そしてペドロにプレゼントされた薔薇の花束を材料に、彼へのありったけの愛を込めて作った「ウズラの薔薇ソース仕立て」。ティタの血や肉まで溶け込んでいるかのような濃厚な料理を通し、ペドロは彼女と官能的な関係を結ぶ。この辺りの感覚は、ワインをキリストの血、パンをキリストの肉体として受け取る、キリスト教的な考え方によるところが大きいのかもしれない。
  しかしこの薔薇ソース、ティタに理解があるもう1人の姉・ヘルトルーディスには刺激が強すぎた。体から実際に火が出るほど欲情した彼女は、町ですれ違っただけの荒々しい男のもとに走ってしまうのだ。
  強い思いが魔術的に作用していく様子からは、人間の持つ原始的な力が伝わってくる。想像力に満ち、まるで神話のような崇高さすら漂う本作。あなたには媚薬となるか、毒となるか、ひと口食べてみては?



文:谷藤さおり

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