「モンテーニュ通りの
カフェ」

 

2005年・フランス  106分
■監督・脚本:ダニエル・トンプソン
■出演:セシール・ド・フランス 
  ヴァレリー・ルメルシエ 
  アルベール・デュポンテル クロード・ブラッスール 
  クリストファー・トンプソン ダニ ラウラ・モランテ 
  シュザンヌ・ フロン
■配給:ユーロスペース

この情報は2008年4月時点のものです。


お客さんの人間観察がやめられない

若き日をパリで過ごした祖母の思い出話に憧れ、田舎町からパリにやってきたジェシカ。どうにかモンテーニュ通りにあるカフェにもぐり込んだ彼女は、本来は男の仕事である“ギャルソン”の仕事を始める。劇場や高級ホテル、ブティックが立ち並ぶ一角にある店にやってくるのは、ジェシカがこれまでの人生で会ったこともないようなセレブばかり。女優、ピアニスト、舞台や映画の関係者、美術収集家といった客たちを、ジェシカは興味深く観察し始める…。

興味シンシン度
料理の魅力度
総評

濃厚なフルコースではなく、軽い“カフェご飯”仕立ての群像劇。しかも軽さの中に味わい深いセリフが潜んでおり、十分な余韻も楽しめるはず。

 

カフェに集う華やかな世界の住人を
ヒロインが天使のように見つめる極上ドラマ!

誇り高きパリのカフェ

 パリのカフェには目に見えないWしきたりWが存在する。まず、コーヒー1杯でも座る席によって値段が違う。立ち飲みスタイルのバーカウンターが一番安く、店の奥にソファ席がある場合は、そこが特別料金だったりする。そして、パリっと身だしなみを整えたギャルソンたち。ちょっと格式ばった店だと、近くを通りがかったギャルソンを適当に呼び止めても、肩をすくめるだけで注文すら聞いてもらえない。どうやら、そのテーブルを担当するギャルソンしか接客できない決まりがあるらしい。
 気の利いたパリの住人たちは、ひいきのギャルソンがいるカフェ、ひいきのギャルソンが担当するテーブルにせっせと通う。ギャルソンはまさに店のW顔Wであり、彼らの仕事に対する意識も高い。
 本作に登場する「カフェ・ド・テアトル」は、町の清掃員が毎日通うような大衆店だ。それでも、場所がらアラン・ドロンのような有名人もやってくる店に、主人は並々ならぬプライドを持っている。ギャルソンの質にもこだわっており、女を雇うなど論外だ。しかし空前絶後の人手不足のなか、ピアノの演奏会と舞台の初日、盛大なオークションが重なる17日を3日後に控えた主人は、やむなく痩せっぽちでひょろりとした女の子・ジェシカを雇い入れる。


ドラマティックで軽やかな人間賛歌

 パリにやってきたばかりのジェシカは、こうして無事にWにわかギャルソンWになったものの、仕事そっちのけで客たちのセレブな世界に興味シンシン。メロドラマでヒロインをつとめた女優を接客しては舞い上がり、出前に行った劇場ではW関係者以外立ち入り禁止Wの舞台稽古をちゃっかり見学して怒られる始末だ。
 しかし気難しそうなピアニストも、人生の悲哀を抱えた美術収集家も、自分のまわりにはジェシカのような純真で無邪気な人間がいないからか、彼女にだけはすんなりと心を開く。なにかと気苦労の多いアーティスティックな人々の、様々なシチュエーションにふわりと紛れ込む彼女は、まるで神出鬼没な天使のよう。そして意識する、しないに関わらず、彼らの人生の転機に立ち合い、少なからず影響を与えていく。
 パリのギャルソンたちは、まるでカフェが舞台であるかのように、見られるのを意識した優雅な動作で立ち回る。一方本作のジェシカはカフェで働きながら、逆に舞台を降りたアーティストたちの素顔を目の当たりにする。そこにあるのは、ステージ以上にドラマティックで、それでいて軽やかな悲喜劇だ。ドラマはいたる所に転がっていて、そこかしこが舞台になりうるのだ。

文:谷藤さおり


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