チョコレートを食べれば、誰もが幸せ!? 閉鎖的な村にやってきた母娘の奮闘記 母娘が運んできた、チョコの魔力 妊娠中に毎日1カケラのチョコを食べると、陽気な子供が生まれるという。真偽のほどは定かではないが、一口食べれば幸せになるチョコレート。母親の精神状態が胎児に与える影響を考えれば、ありえない話でもなさそうだ。 最近ではポリフェノールやギャバなど、チョコが心身に及ぼす好影響が科学的に解明されている。だが2千年以上も前、古代マヤ人はすでにその効用を知っていた。 そんな一族の末裔にあたるヴィアンヌが、幼い娘を連れてフランスの小さな村に流れてくる。だがよそ者の母娘は閉鎖的な田舎町で警戒され、なかなか住民に受け入れてもらえない。その上、快楽を禁ずる敬虔なクリスチャンの村で、2人はあろうことか断食期にチョコ専門店を開店させる。村の伝統と規律を何としても住民に守らせたい村長レノは、甘い誘惑を持ち込んだヴィアンヌを“悪魔”と呼んではばからない。 しかしヴィアンヌには、客にぴったりのチョコを見極める不思議な能力があった。彼女が見立てたチョコの力で、小さな変身を遂げていく住民たち。やがて母娘も、少しずつ村に馴染んでいくのだが…。 甘さの中に苦味が潜むファンタジー おとぎ話のようにファンタジックな本作だが、根底には“哲学”が流れる。ヴィアンヌはよそ者である以上に、異教者だから住民に反発されるのだ。これまで何度も戦火を招いてきた宗教と文化の対立が、ミニマムな形で描かれていく。自分たちの規律を死守するのか、他者の異文化を容認するのか。本当の悪人は1人もいないこの村で、人々は“収まりどころ”を探り続ける。 もう一つ描かれるテーマは、人間の精神的な自由だ。チリペッパー入り、バラのクリーム入り、グアテマラのカカオのチョコ。町から町へと移り住み、様々なチョコを客に“処方”してきた彼女は、人々の目に自由の象徴として映る。だが実際の彼女は過去の亡霊に取り憑かれており、精神的な自由はおろか、心の平安すら持ちあわせていない。旅の中で暮らす者が、自由だとは限らない。ファンタジックな甘さの中に、ほろ苦い真理がブレンドされている。 さて、冒頭の一説だ。私の友人が、身を持ってその真偽を確かめた。1歳と数ヶ月になる彼女の娘は、まったく人見知りせず、よく笑い、よく遊ぶ。遊びたい一心で夜もなかなか寝てくれない娘を見て、彼女は「毎日、チョコを食べすぎたかも」と笑う。 劇中、チョコレートのディナーを囲んだ人々が、意外な美味しさに大声で笑い出す。そのシーンを見て、やっぱりあの娘の陽気さは、チョコの影響かしら…と考えた。
文:谷藤さおり
ごちそうエンタインデックスへ>>
グルメキャリー本誌は、毎月第1・3木曜日各コンビニエンスストア・書店にて好評発売中!次号は10月16日発売! ※試し読みもできます!
いつでもどこでも、グルメキャリーの新着情報をチェック!
http://gourmetcaree-tokyo.com/