「恋人たちの食卓」

1994年 台湾  125分
■監督・脚本:アン・リー
■出演:ラン・シャン ヤン・クイメイ ン・シンリン 
ワン・ユーウェン ウィンストン・チャオ チェン・チャオロン
■DVD「恋人たちの食卓」発売元:竹書房
販売元:ジェネオン エンタテインメント
¥3,990(税込)
この情報は2006年11月時点のものです。
家でもムダにご馳走を作ってしまう
台湾の大都会、台北。妻を16年も前に亡くし、男手ひとつで3人の娘を育ててきたチュ。しかし適齢期を迎えた娘たちと父の間にはいつしか溝ができ、毎週日曜に開かれる家族の夕食会にもシラけた空気が漂っていた。5ツ星ホテルのコック長をしているチュが腕を振るったご馳走に、見向きもしない娘たち。彼女たちはもう、家族よりも恋人や友人と気ままに過ごしたいのだ。一方のチュも味覚の衰えが進み、料理人としての自信を失いかけていた・・・。
人生の賛歌!度
料理の魅力度
総評
『ブロークバック・マウンテン』のアン・リー監督作。細部まで巧みに作られたドラマ構成は見ごたえアリ。素晴らしい料理だけでも飲食人必見!

 

適齢期の3人娘と職人気質の料理人が織りなす
予測不能、悲喜こもごものホーム・ドラマ!


適齢期の娘を抱えた一家の行く末は?

  「食と性は、人間の欲望だ。いくつになっても振り回される」。本作は、文字通りふたつの本能に突き動かされ、変化していく一家の物語だ。といっても、センセーショナルな映像表現は極めてひかえめ。彼らの衝動は、信じられないほどドラマティックで急激なストーリーとして現れていく。
  チュ家の3人娘は、性格もタイプもバラバラだ。敬虔なクリスチャンで、恋愛にもオクテなカタブツ高校教師の長女。才色兼備の次女は航空会社のキャリアウーマンで、元彼と身体だけの関係を続ける進歩的な女性だ。三女はファーストフード店でバイトをする無邪気な女学生だが、オンナとしてはまだまだヒヨッコであどけない。
  母の死後、チュ家では父が家事を取り仕切ってきた。しかしその父も高齢。味覚の衰えた今、料理人を引退する日も遠くなさそうだ。一体、誰が家に残って面倒を見るのか…。3人の娘の顔は思わず曇り、家族揃っての夕食も憂鬱なものになっていた。
  しかし一家の運命は急速に転がりだし、娘たちは1人、また1人と家を飛びだしていく。そして最後に待ち受けるのは、想像をはるかに超える痛快な大どんでん返し! 語り口こそ穏やかだが、新鮮な驚きと人生の喜びに満ちた、刺激的な作品だ。

料理人の執念漂う、豪華すぎる食卓

  見事な中華料理がさりげなく、次々と登場する本作。オープニングから、いくつもの料理をリズミカルに、よどみなく調理するチュの職人技が堪能できる。庭先で鶏を育て、たくさんのビン詰め香辛料や包丁に囲まれた、チュ家の台所。家の食卓でも妥協を許さない、徹底した職人なのだ。
  チュがコック長を務めるホテルが、これまたスゴイ。トラブルで呼びだされたチュは、裏口から厨房に颯爽と駆け込む。しかし彼がいくつ扉を開けても、延々と続く巨大な厨房。殺気立った厨房の大きさで店の巨大さを一瞬にして伝える、名場面だ。
  しかしそんなチュの料理は、娘たちにはすこぶる評判が悪い。食べ飽きているのかと思ったら、どうやらそうではないらしい。そもそもチュが用意する夕食は、量も質も常軌を逸している。小さな円卓に並ぶのは、皿に料理で絵を描いたような宮廷料理の数々。それは娘への愛情ではなく、むしろ職場では求められない本物の職人芸を発揮する、ストレス発散の場に過ぎないのだ。そんなチュの料理に対する妄執が、ヤケクソのように豪華な夕食からにじみだす。
  おまけに味がわからなくなるわ、娘は次々と嫁いでしまうわ、踏んだり蹴ったりの老料理人だが、最後に観客の同情を呆れるほど見事にはねのける。ご期待あれ!



文:谷藤さおり

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